以前、NMN(ニコチンアミドモノヌクレオチド)の若返り効果を検討した動物実験の結果を簡単にご紹介しましたが、「で、人間が飲んだらどうなるの?」が気になりますよね??
今回は、東京大学の研究チームが発表した「健康な高齢男性がNMNを12週間飲み続けたらどうなったか?」という臨床試験の結果を解説します。 サプリメントの広告では語られない、科学的な「数値」をお示しいたします。

🧪 どんな実験だったの?:65歳以上の男性vs偽薬
まずは、実験のデザインをしっかり把握しておきましょう。
- 対象: 65歳以上の健康な日本人男性。
- 期間: 12週間(約3ヶ月間)。
- 内容: 毎日、以下のどちらかを摂取してもらいました。
- Aグループ: NMN 250mgが入ったカプセル
- Bグループ: プラセボ(偽薬)のカプセル
この実験は、医師も参加者も「自分がどちらを飲んでいるか」を知らされない「二重盲検ランダム化比較試験」という、非常に信頼性の高い方法で行われました。
💡【用語解説】超重要キーワード「プラセボ」とは?
実験で使われた「プラセボ」とは、「有効成分が全く入っていない、見た目だけ本物そっくりのダミー薬(偽薬)」のことです。
なぜこんな意地悪なことをするのでしょうか? 人間は不思議なもので、「体にいいサプリを飲んでいる!」と思い込むだけで、気分が良くなったり体調が改善したりすることがあります。これを「プラセボ効果」と呼びます。この「思い込みによる効果」を排除し、「本当にNMNという成分の化学的な力で効果が出たのか?」を厳密にジャッジするためには、このダミーとの比較が科学的に絶対不可欠なのです。
🟢 結果①:NMNは確実に「届いていた」
まず一番の朗報です。 「飲んだNMNはちゃんと吸収されるの?」という疑問に対し、明確な答えが出ました。
NMNを摂取したグループは、プラセボ群と比較して、血中の「NAD+(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)」およびその関連物質の濃度が有意に上昇していました。 NAD+は、細胞のエネルギー産生に不可欠であり、加齢とともに減少してしまう物質です。NMNを経口摂取することで、ヒトの体内でもNAD+レベルをしっかり底上げできることが証明されたのです。さらに、肝機能や腎機能の数値にも異常はなく、重篤な副作用もゼロ。 「1日250mgのNMN摂取は安全であり、確実に体内の代謝を活性化させる」という土台が確認されました(3ヶ月という短期での評価ですが)。
🟢 結果②:「歩く速さ」と「握力」に確かな変化が!
ここからが本題です。NMNによって身体機能にどのような変化が起きたのでしょうか? 結果は、筋肉の「量」ではなく、「質(パフォーマンス)」に現れました。
具体的な数値(12週間後の変化量の平均値)を見てみましょう。
1. 歩行速度が速くなった 🏃♂️
- プラセボ群: 変化なし(-0.01 ± 0.10 m/s)
- NMN摂取群: 秒速 0.09メートル上昇(+0.09 ± 0.13 m/s)
- 統計的有意差あり (P=0.033)
「秒速9cmの差?」と思うなかれ。高齢者医療において、歩行速度は「余命」や「生活機能」を予測する極めて重要なバイタルサインです。この数値が改善したということは、足取りが軽くなり、身体機能の若返りが起きた可能性を示唆しています。
2. 左手の握力が強くなった 💪
- プラセボ群: 0.7kg 低下(-0.7 ± 2.5 kg)
- NMN摂取群: 1.3kg 上昇(+1.3 ± 2.7 kg)
- 統計的有意差あり (P=0.019)
興味深いことに、統計的に有意な差が出たのは「左手」だけでした(右手も改善傾向にはありましたが、有意差までは出ませんでした)。 これについて研究チームは、「利き手(多くの場合は右手)は日常的に酷使されているため変化が見えにくいが、普段あまり使わない非利き手(左手)の方が、NMNによる筋機能改善の効果が純粋に現れやすかったのではないか」と考察しています。
また、統計的な確実性までは言えませんが、聴力(右耳)についてもNMN群で改善の傾向が見られました。NMNが感覚器官の維持にも役立つかもしれないという、将来の研究への期待を残す結果です。
🔵 結果③:「見た目」の変化はなかった
一方で、期待外れだった点も冷静に受け止める必要があります。 12週間の摂取では、以下の項目には有意な変化が見られませんでした。
- 筋肉の量(骨格筋指数 SMI)
- 内臓脂肪の面積
- 体重、BMI、体脂肪率
- インスリン感受性や血糖値などの代謝データ
マウス実験では「代謝が改善して痩せた!」という報告もありましたが、今回の研究では再現されませんでした。 この理由として、今回の参加者が「もともと健康で代謝が正常な人たち」だったことが挙げられます。すでに健康な状態の人に、それ以上の代謝改善効果を出すのは難しいのかもしれません。あるいは、筋肉を太くするには12週間では短すぎた可能性もあります。
つまり現時点では、「NMNは飲むだけで筋肉ムキムキになったり、勝手に脂肪が減ったりする魔法の薬ではない」と言えそうです。
⚠️ この研究の「正直すぎる」トラブル報告
最後に、この論文の信頼性を逆に高めているとも言える、「研究中のトラブル」について触れておきます。実は、試験期間中の6週目に、業者側の手配ミスにより、22名の参加者に「NMNとプラセボを逆のボトル」で渡してしまうという重大なアクシデントが発生しました。 科学的な厳密さを守るため、研究チームはこの22名分のデータを最終解析から除外する決断を下しました。
その結果、最終的に解析できたのは42名中わずか20名(NMN群10名、プラセボ群10名)。 参加人数が半減したことで、統計的な説得力(検出力)はどうしても弱まってしまいました。もし42名全員のデータが使えていたら、右手の握力や聴力の結果も「有意な改善」として証明されていたかもしれません。
しかし、人数が減ったにもかかわらず、「歩行速度」と「左手握力」でしっかりと有意差が出たという事実は、NMNの効果がそれだけ強力である可能性を示しているとも解釈できます。
🏁 まとめ:NMNは「動ける未来」への投資の可能性
今回の東大の研究結果をまとめると、以下のようになります。
- 安全性と吸収: NMN 250mgは安全に飲めて、血中の若返り成分(NAD+)を確実にブーストする。
- 身体機能: 筋肉の「量」は増えないが、「動き(歩行速度・握力)」という機能面は改善する。
- ダイエット: まだ不明。要継続調査!
NMNは、飲めば20歳の頃の肉体に戻るようなSF的な薬ではありません。 しかし、年齢とともに誰もが直面する「動きの鈍り」や「筋力の低下(サルコペニア)」にブレーキをかけ、活動的な体を維持する可能性を示唆するデータが本研究では示されました。
「最近、散歩のペースが落ちたかも」「ビンの蓋が開けにくい」 そんな身体のサインを感じている方や将来の運動機能不安がある方にとって、NMNは試してみる価値のある選択肢と言えるでしょう。もちろん、サプリだけに頼らず、日々の運動と組み合わせることで、今回の結果にあるような「機能改善」がより強く実感できるはずです。
正しい知識を持って、賢く「若々しさ」を保っていきましょう!
なお、使用したのは三菱商事ライフサイエンス株式会社(Mitsubishi Corporation Life Sciences Limited)のNMN製品ということでした。
動物におけるNMNの効果を知りたい方はこちら!
紹介研究:Chronic nicotinamide mononucleotide supplementation elevates blood nicotinamide adenine dinucleotide levels and alters muscle function in healthy older men. M Igarashi著


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